「夏休み」


うちわのかわりになりそうな、丈夫な紙を仰いでいた。
血盟城内はひんやりしてそーと思っていたが、あいにく自分の部屋は熱気でムラムラ。ムラタ。
あれ、違う?とにかく頭がおかしくなりそうなくらい暑い。
とりあえず風を起こして涼しくしようと必死だ。

「はぁー…夏かぁー」
「そうですね」

コンラッドもまた、おれの部屋にて風力発電中。あ、違うか。風力…まあいいや。

「夏ねぇ…眞魔国にいると、夏!って感じがしないんだよなぁ。いや今も十分暑いけどさ!」
「日本では、もっと暑いんですか?」
「うん。特に東京の暑さといったら、ありゃ生き地獄だよ」
「そんなに…俺は日本へは行ったことがないので、よくわかりませんが…」
「なんかね、モワァ〜って。モワァ〜ってするんだよ」
「なんだかモルギフみたいですね」
「へ?ちっがうよ、モワァ〜だよ。こう、なんていうか…モワァ〜って」

かなり必死に説明中。暑くて情報伝達機能が壊れてるんじゃないの?ていうかなんだそりゃ。
ジェスチャーすらできないなんてキャッチャー失格じゃん!真夏の甲子園だったらどーすんだ!

「暑さがこもってる感じですか?」
「あーそう!そうそうそう!いやー。やっぱコンラッドはまとめるのがうまいね!」
「いえ、陛下ほどでも」
「…陛下って呼ぶなって言ってるだろ、名付け親」
「あ、すみません。ユーリ」
「それでよし!」

おれはうちわがわりの紙で思いきり仰いだあと、ひと息ついてから訊いた。

「ねえ、眞魔国には夏休みってないの?」
「夏休み、ですか?」
「そ。なっがーい休みがあってさ、その期間中は仕事もなんにもしなくていいの。
 まあ、宿題とかいういや〜なモンがついてくるときも…ある…けど…」
「さあ。ユーリの言うような長い休みはないですが…そもそも普段から休みなんてありませんからね」
「あ、そっか。でもアレだよね」
「どれですか?」
「それ!…いや、そうじゃなくて」
「?」
「おれなんか毎日夏休みって感じがするよ。難しい仕事は全部ギュンターやグウェンに任せっきりでさ。
 おれ、普段からなんにもやってないし…」
「そうですか?ユーリもちゃんとやってるじゃないですか、勉強とか、剣の稽古とか」
「それはー…そうか、それは休みとは言わないよな。あぁ…全部楽しいから遊びと同じ感覚だった」
「勉強や稽古を楽しくできるっていいことじゃないですか。さすがユーリですね」
「え、そぉ?あは、コンラッドにそういってもらえるとなんか嬉しいな」

コンラッドはおれに顔を向け、ニコニコ笑っている。暑そうな素振りはまったく見せていない。

「なーんか、コンラッド見てると暑さふっとぶなー」
「どうしてですか?」
「だって、コンラッドっていつでも涼しいじゃん。暑苦しくないって言うか、涼しい顔っていうか」
「クールってことですか」
「うーん、それとはちょっと違うかな…。でもなんか涼しさを分け与えてくれるような感じ」
「喜んでもらえるなら、嬉しいことですね。ありがとうございます」
「いやーお礼なんていらないんだけどさ。あー…ギュンターとか暑そうだなー」
「そうですねえ。彼はいつも暑そうな服を着て…」
「うん、それもあるし、髪も長い!ついでに汁気が多いから汗だくになりそう…」
「仕事中は髪を上げているんじゃないかな?」
「まーそうだとしても汁気が半端じゃないって。汗かくと余計暑く感じちゃうんだから」
「そうですね。そしたら…彼に、夏休みがあったらいいかもしれませんね」
「へ?あ、夏休み。そっかーそしたら汁気大放出しながら仕事されなくて済むねー」
「グウェンやヴォルフ…それから血盟城で働く者たち全員にも夏休みがあればいいんですけれど」
「そうだね!それいい!コンラッド、今日から何日かずっと休みにしちゃおうよ!
 固いことなんて言わずに、ぱーっと!遊んでもよし、寝ててもよし、なんかすっげーいいじゃん!?」
「それはそうですが…しかし、いっきに全員が休暇をとられては困りますね」
「じゃあ…何人かずつで休みの期間ずらしていくとか?」
「そんなことしてたら夏が終わってしまいますよ」
「えーじゃあできないじゃん」
「そうみたいですね」
「夏休みがあったらいいって言ったのコンラッドが先なんだから、そう言いながらニコニコしないでよー」
「やっぱり、いつも通りが一番なんですかね」
「そうなのかなぁ…ちぇっ、つまんねーの」
「いいじゃないですか。いつも通りとはいえ、キャッチボールは毎日できるんですから、ね」
「そ、そうだよな。野球は夏が一番!夏の練習をサボるとろくなことないからなー」
「どうです?キャッチボール、します?」
「うん!」

…ほんの数秒前に戻って、血盟城内、フォンクライスト卿ギュンター閣下の部屋。

「へっくしょい!…ああ、きっと今しかた、お美しいわたくしの陛下が、王佐であるこのわたくしの噂をしておられたのですね。
なんて幸せなのかギュンター…この身のどこからともなくいつも以上にギュン汁が溢れ出します…」
「いつからユーリはお前のものになったんだ!!そんなこと言うやつは、このぼくが許さないぞ!!」
「ひぇーっ!ヴォルフラム、おやめなさい!ただせさえ暑い季節なのです!
 あ、ば、れ、な、い、で、く、だ、さいっ!
「うるさーい!!」

お前等が一番うるせーよ…。夏っていうか、もうどの季節構わずこんな感じなんだけどね。
日本だったら今は全国的に夏休み。
きっといつものように日本にいたら、こんな生活は絶対に想像してなかっただろう。
ていうかできるわけねーじゃん!



2006/08/05 「Written by 種春ニコ」


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